社説:みどりの日 吸収源としての森林を豊かに
英国の作家C・S・ルイスの「ナルニア国物語」は、この世界とつながるもうひとつの世界を描いたファンタジーだ。物語では時に森が重要な役割を果たす。そこに目をつけたのだろう、原作を基にした映画の配給会社と農林水産省などが「美しい森林(もり)づくりキャンペーン」を展開している。
ルイスがどこの森をイメージしたにせよ、現実の英国では森林が国土に占める割合は1割に過ぎない。一方、日本の森林は国土の7割を占める。世界に冠たる森林国だ。
この森林を日本は温室効果ガス削減の重要な手段と位置づけている。今年から始まった5年間の京都議定書約束期間に、日本は90年に比べ6%の温室効果ガスを削減しなくてはならない。そのうちの3・8%を森林の保全や植林でまかなう計画だ。
しかし、今のままでは達成は難しい。鍵を握るのは、キャンペーンのテーマでもある森林の手入れと国産材の利用だ。
人工林は木材を活用することでうまく循環する。ほうっておくだけでは劣化し、二酸化炭素の吸収も落ちる。ところが、輸入材より割高なため国産材のシェアは低下してきた。最近、やや回復のきざしはあるものの、2割程度にすぎない。
森林を活性化させるには、国産材の利用を進める工夫が大事だ。森林整備のために間伐を進め、間伐材をうまく利用するアイデアにも注目したい。木のぬくもりを日常生活に取り入れたいと考えている人は、潜在的に多いはずだ。
途上国の森林減少はさらに深刻だ。火災や伐採などにより、二酸化炭素の「吸収源」であるはずの森が、逆に「排出源」になっている。この排出は、世界の人為的排出の2割に上るといわれる。日本は自国だけでなく、途上国の森林保全にも真剣に取り組みたい。
京都議定書では先進国だけが削減義務を負っている。しかし、13年以降の「ポスト京都(京都議定書以降)」では、途上国の排出削減も見逃せない。当然、森林の減少を食い止め、吸収源として増加させることも欠かせない。
その際に、途上国にどのようなインセンティブを与えるかが検討課題だが、目に見える形で評価するには森林の保全や劣化の状況を測定する必要があるだろう。ここに日本の衛星技術を生かす構想も持ち上がっている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち」の合成開口レーダーを利用し、森林を監視するアイデアだ。
英国のエコノミストがまとめたスターン報告によると、温室効果ガスの排出に結びつく森林伐採の抑制は、適切な政策により他の緩和策より低コストでできるという。豊かな森を享受しつつ温暖化防止に貢献するための知恵を絞りたい。
毎日新聞 2008年5月4日 東京朝刊 より
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